軽度認知障害(MCI)とは
昨今、軽度認知障害(MCI:Mild cognitive impairment)というよく耳にする方も多いのではないでしょうか。
MCIとは、認知症になる前段階で、正常な状態と認知症の間に位置するいわゆるグレーゾーンとしてクローズアップされている概念です。
MCIは認知症ではありませんが、まったく健康な状態というわけでもありません。
次のような症状がないか、チェックしてみてください。
1)患者さんまたは家族による物忘れの訴えがある
2)記憶障害以外の認知機能は正常に保たれている
3)日常生活動作は自立している
4)テストなどの検査を受けても認知症ではない
5)年齢や教育レベルの影響だけでは説明できない強い記憶障害がある
以上5つが全部あてはまれば、MCIと考えられています。
認知症にみられる物忘れというよりも、廊下に伴う物忘れが進んでいる状態です。
中核症状を発端として起こる周辺症状
周辺症状は、中核症状が現れた時、周囲との関わりの中で起こるもので、主に気分障害、妄想、幻覚などの症状があります。
周辺症状は、その人の性格や環境によって現れ方が違い、家族にとっては一番つらく、介護の負担となるものです。
気分障害とは、一般には気分のひどい落ち込みや高揚を指し、日常生活に支障をきたすものです。認知症で多く見られるのは不安、焦燥、緊張感、怒りっぽい、感動できないなどで、うつ病と間違われることもあります。
妄想とは、現実にはあり得ない事を確信して、それに対する説得を受け付けない状態をいい、被害妄想、嫉妬妄想などもあります。
特に物を盗られたと騒ぐ物盗られ妄想はたいへん多く、認知症による妄想の60%を占めます。物盗られ妄想は、中核症状と、周辺症状の関係を表すたとえとしてよく用いられます。
認知症の「中核症状」とは
認知症の症状は誰にでも共通して起こる「中核症状」と、周囲との係りの中で起こる「周辺症状」の2つに分けられます。
中核症状とは、脳の神経細胞が壊れることによって起こる症状で、記憶障害、見当識障害、認知障害(失語、失行、失認、実行機能障害)をいいます。
特に記憶障害は、認知症の初期段階から必ず見られるもので、老化による物忘れとの区別が付きにくく、見逃しやすい症状です。
見当識障害の見当識とは時間や場所など、自分が置かれている状況をきちんと理解することを言います。
つまり見当識障害なると、時間がわからなくなる、よく知っているはずの場所で道に迷うなどの症状が現れるのです。
さらに進行すると、人の顔が分からなくなることもあります。
認知障害とは、失語、失行、失認、実行機能障害の4つをさします。失語は声は出るのに言葉が思い出せない、もの名前が出てこないなど、「健忘失語」と呼ばれるもので言葉の意味や読み書きが可能です。
失行はボタン掛けができない、シャツが着られないなど、よく知っているはずの動作が上手に出来ません。
失認は見たり聞いたり、手で触っても、それが何か理解できず、脳が情報として判断できない状態をいいます。
実行機能障害は計画を立てたり手順を考えたりすることができなくなるものです。この障害は個人差が大きいため、発病前にできていたことができなくなり、仕事上や日常生活において正月時に障害があると判断します。
このように中核症状は脳の障害が直接関わるもので、脳の神経細胞の減少の程度によって進み方も変わってきます。
認知症の原因は脳の神経細胞の破壊
脳の神経細胞の損傷はどんな形で認知症の症状をもたらすのでしょうか。
脳には1000億個の神経細胞があり、その神経細胞に情報を運ぶ役割をしているのが神経伝達物質です。
認知症のなかで大きな比率を占めるアルツハイマー型認知症は、大脳皮質にある神経細胞が徐々に死滅し、脳が委縮していく病気です。
神経細胞が死滅することによって神経伝達物質も失われ、脳全体のネットワークが崩壊して脳の働きがストップします。そのため、様々な症状が現れるのです。
また、脳血管性病気で起こる認知症は、脳出血や脳梗塞で血管が破れたり、詰まったりして、神経細胞が破壊されることもあります。
アルツハイマー型認知症では、徐々に神経細胞が冒され、ゆっくりと進行してゆくため、ごく初期には老化による症状とほとんど区別がつきません。
初期の頃は物事を思い出したり考えたりする力が低下するため、人の名前や場所を忘れることが多くなりますが、言葉を発することはでき、ふつうに会話することもできます。
一方、脳血管性認知症は、脳出血や脳梗塞で傷ついた場所によって、その症状が違ってきます。
たとえば、言葉をつかさどる言語中枢が傷ついた場合は言語能力が障害され、言葉が出てこなかったり、会話の内容が理解できなかったりと、人とのコミュニケーションがうまくいかなくなることがあります。
このように、脳の中で起こるさまざまな障害によって、認知症の症状の現れ方や程度が違ってくるのです。
症状が似ていても、原因となる病気によって治療法も変わってきます。様子が変だと気づいたら、なるべく早く専門医を受診しましょう。
認知症の約90%を占める三大認知症
認知症は脳の病気です。脳の神経細胞が何らかの原因で破壊され、意識が明瞭な時に物事を判断したり、記憶したりする力が障害を受けるものです。
つまり認知症とは、脳の神経細胞を破壊する原因疾患によってもたらもたらされる症状で、原因疾患の数は200~300くらいあると言われています。
その代表とされるのがアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症の3つで、認知症全体の約90パーセント占めています。
脳の神経細胞内にβアミロイドタンパクが蓄積して起こるものを、「アルツハイマー型認知症」、脳梗塞や脳出血等、脳血管性の病気が原因のものを「脳血管性認知症」、レビー小体という異常なたんぱく質が蓄積して起こるものを、「レビー小体型認知症」と呼び、三大認知症と言われています。原因となる病気によって、脳の神経細胞の傷つき方が違うため、あらゆる認知症の症状も違ってくるのです。
老化による物忘れと認知症との違い
認知症の初期症状は老化によるものだと思われがちです。では老化による物忘れと認知症との違いは、一体どこにあるのでしょうか。
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加齢に伴う物忘れは、老化による記憶力の低下であって、病気ではありません。40~50代までは、知的能力も伸びるとされています。しかしその後は、体の機能と同じように衰えを見せ、脳の機能も低下していきます。
個人差はあるものの、物忘れをしたり新しいことが覚えられないといったことは、誰にでも起こる症状です。
しかし認知症の場合は違います。認知症は脳の病気です。脳の神経細胞が壊れて、記憶や認知能力が失われ、生活に支障きたすものです。
特に記憶に関わる症状は老化と区別がつきにくく、見落としがちです。早期発見・早期治療するためにも、老化による物忘れと認知症の違いを知っておきましょう。
■認知症の主な初期症状
・人のない人や、物の名前が出てこない、覚えていない
・置き忘れやしまい忘れが多い
・何度も同じことを話す、聞く
・慣れている場所で道に迷う
・普通に会話ができない
・話の内容が理解できない
・時間、日付、住所、電話番号がわからない
・疑り深くなる
・ささいなことに怒る
・薬の管理ができない
・今までに日課にしていたことをしなくなる
・以前よりだらしなくなった
認知症は「体の病気」でもある
かつて「ボケ」や「痴呆」と呼ばれていた時代は、認知症の解明がなかなか進まず、正しい理解がされていなかったため、様々な誤解を生む事にもありました。
認知症は心だけでなく、体の病気でもあります。年を取ればだれでも認知症になるわけではありません。体の病気ですから治療する必要があるのです。
これまで正しい情報が伝えられなかったために、家族は認知症になっても仕方がない、年をとったら当たり前の症状ととらえ放置してきました。
認知症になったらもう終わりだ、進行を食い止めるなんてできるはずがない、後は介護しかない、と本人も周りの家族も諦めてきたのです。
しかし、認知症は体の病気ですから、ほかの病気と同じように早期発見が重要な鍵となります。
ただ介護するだけの生活にならないためにも、認知症についてもっと深く理解する必要があります。
認知症と呼び名が改められて以来、少しずつですがその病名が浸透し、研究も積み重ねられ、認知症の患者さん本人だけでなく、その家族にも明るい光がさしてきました。
残念ながら、失われた脳の細胞は元には戻りませんが、進行を食い止めたり遅らせることが可能な認知症があることもわかりました。
認知症の症状を表すもののなかには、治療を行えば認知症は治り、元の生活に戻れる疾患があることもわかっています。
薬の開発や治療法の研究は国内だけにとどまらず世界中で行われています。しかし改善できる可能性のある認知症であっても、治療が遅れれば脳の機能低下が進んで治るものも治らなくなってしまいます。
新しい情報得るためにも、「単なる老化」として済ませるのではなく、早めに専門医の診察を受ける必要があるのです。